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おばさん社労士の発信基地 きぼうという名の事務所です。

開業してからまる13年「発信する社労士」を目指して「独立独歩」「自主自立」の活動をつづるブログです。

経歴詐称は懲戒解雇できるか?

先週、所属する研究会の例会があり、メンバーの一人と、彼の関与先の会社で中途採用した社員が過去に勤めていた会社とのトラブルがあった人だということが最近わかり、会社側としてはそれを知っていたら採用しなかったので辞めてもらいたいけど、簡単に解雇というわけにもいかないよね、なんて話を休憩時間中の雑談で話しました。
守秘義務に触れるとまずいですから、これ以上のことは書くのは控えますが、一般的な就業規則には解雇も含む懲戒事由のひとつとして「経歴詐称」というのがあると思います。
これには、積極的にうそを言うものの他に、それを知っていたら会社が採用しなかったと考えられるような犯罪歴を隠すようなことも含まれると考えられています。

経歴詐称についての裁判例としては、学歴を高く詐称したもの(神戸製鋼事件大阪高裁判昭37.5.14)、学生運動による大学中退を秘匿するために低く詐称したもの(日本鋼管鶴見造船所事件東京高裁判昭56.11.25労判377-30)、前の職場での組合活動やトラブルを秘匿するために詐称したもの(都島自動車商会事件大阪地裁判昭62.2.13労判497-133)、職務に必要な能力があると詐称したもの(グラバス事件東京地裁判平16.12.17労判889-52)など、古くから下級審であり、就業規則に根拠規定があることを前提に経歴詐称が懲戒事由になることを肯定しています。
経歴詐称は労働契約締結時における信義則上の義務違反であると考えることができるからです。

民法95条に意思表示をするときにその要素について錯誤があったときは無効とするという規定があり、(もし、真実を知っていたら契約しなかったのに、思い込みや勘違いにより契約をしてしまった場合、その契約は無効となる)経歴詐称についても会社が真実を知っていたならば採用しなかっただろうという因果関係の認められるものについて、懲戒を認めている判例があり、民法の錯誤の考え方にのっとっているようです。

最高裁の判例(炭研精工事件最判平成3.9.19労判615-16)では、ほぼ上記の考え方と同様で、成田空港反対闘争に関係して凶器準備集合罪で起訴され、大学を除籍となったことを隠し、最終学歴を高卒として入社した社員についての懲戒解雇を有効としています。
この社員は、入社後もデモに参加して公務執行妨害罪で逮捕・拘留され弁護士から欠勤届が出されたため、会社があらためて経歴を調べ、大学中退だったこと、入社後も2回にわたり懲役刑に処せられていたことなどが判明したものです。
会社は、中卒者又は高卒者を対象としてプレス工又は旋盤工の求人募集をしていて、面接の際に学歴を確認し、「賞罰はないね」とも聞いていて、本人はそのとおりであると答えていました。
会社が経歴詐称により懲戒解雇したことについて、労働者側が地位確認訴訟(解雇が無効だと主張した)を起こしたものです。

判決では、雇用関係が相互の信頼関係に基礎をおく継続的な契約関係であるとして、労務に関係することばかりでなく、職場への適応性、貢献意欲、企業の信用の保持等企業秩序の維持に関する事項についても
「必要、かつ合理的な範囲内で申告を求めた場合には、労働者は信義則上真実を告知する義務を負う」としています。
学歴を高く詐称するのではなく低く詐称したんだからよいのでは?と思う方もいるかもしれませんが、この点についても、
「旋盤工やプレス工については、その職務内容及び他の従業員の学歴とのつりあいという観点から」高卒または中卒としていたことが認められ、そのような事情のもとでは、最終学歴は労働力評価だけではなく、企業秩序の維持にも関係するとして、会社の立場を尊重した結論となっています。

しかし、過去の前歴が知られると採用してもらえないとなると、そのような「すねに傷持つ」労働者は行くところがなくなってしまうのかなあとも思いますが、この点について、
「犯罪歴については、履歴書の賞罰欄にいう罰は確定した有罪判決である」とされ、(大森精工事件東京地裁判昭和60.1.30)刑法34条の2(注1.)により、既に刑の消滅をきたしている前科は原則として告知すべき信義則上の義務はないとされています。(仙台地裁判昭和60.9.19)
企業関係者はこの点については留意する必要があるでしょう。
まして、犯罪歴ではなく以前に何らかのトラブルがあって会社を辞めたとしても、今の会社で特に問題もなく一定期間以上勤めているような場合には、慎重に対処すべき問題だと思います。

[注1.]刑法34条の2 禁錮以上の刑の執行を終わり又はその執行の免除を得た者が罰金刑以上の刑に処せられないで10年を経過したときは、刑の言い渡しは効力を失う。罰金刑以下の刑の執行を終わり又はその執行の免除を得た者が罰金刑以上の刑に処せられないで5年を経過したときも、同様とする。

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