FC2ブログ

おばさん社労士の発信基地 きぼうという名の事務所です。

開業してからまる13年「発信する社労士」を目指して「独立独歩」「自主自立」の活動をつづるブログです。

音楽家の労働者性の判断基準

一昨日は勤労感謝の日で祝日でした。
かねてよりチケットを入手していたコンサートに行くため都内のホールへ出かけると、何やらビラを配っている人がいます。
拡声器でしゃべっている内容からすると労組系だなと思いましたが、私にビラを渡そうとして近づいてきたのは、白髪初老の紳士で黒いタキシード姿です。
好奇心からビラをもらいましたが、「ありがとうございます」と丁寧に頭を下げられ、かえって恐縮してしまいました。
ビラの内容は、新国立劇場の合唱団員の契約打ち切り事件で、今年の4月に最高裁が「労働者」であると認めた事件に関するものでした。
この案件は私も報道で知っていました。
一流の合唱団員である声楽家、いわば芸術家と労働組合という取り合わせが私の中では折り合わないという感じでしたが、最高裁の判決内容は今までの労働者性の判断基準にのっとったものです。
個別労使関係における労働者性については以前過去記事にしました。(参照)
この事案は集団的労使関係(労働組合対経営者)についてです。

有名合唱団所属の声楽家Yさんは、オペラ劇場の開場とともに他の団員と劇場の専属合唱団員となりますが、1年ごとにオーディションが行われ、1年ごとに契約するという契約内容となり、労働条件が悪くなりました。
しかも、開場から5年後オーディションで不合格とされ、所属する労組は経営者側に団体交渉を申し入れますが、Yさんは労働者ではないとして拒否されます。
東京都労働委員会は、Yさんは労働者だと認めますが、不合格は不利益扱いにはならないとしました。
その後、中央労働委員会でも同様の結論が出されたため、舞台は裁判所へと移ったのです。

労働法を見ていく上で、「労働者であるのかないのか」は重要なポイントです。
「労働者」でなければ、労働基準法も労働組合法も適用対象とはならないからです。
いくら労組に加入していますといっても労働組合法上の「労働者」でなければ、法律は適用されません。
劇場側は、最初、それを主張したのでしょう。労働者じゃないんだから、労働組合法なんて関係ない。団体交渉なんてする余地がないということだったのでしょう。
労働組合法では労働組合に加入していることを理由に、その労働者に対する不利益な取扱を禁止しています。
労働委員会では、「労働者」であることは認めましたが、長年の実績のあるYさんをオーディションで不合格にして契約を結ばなかったことは、この不利益な取扱にあたるとした労組側の主張は認められなかったというわけです。

裁判では、地裁、高裁でYさんの労働者性が否定されてしまいますが、最高裁では労働者であるとの結論を出し、現在高裁で差し戻し審が行われています。

最高裁では、①不可欠な労働力として組織に組み込まれていた。②仕事の諾否の自由がない。③契約内容が一方的に決められていた。④仕事の場所と時間が決められていた。
などの理由により、Yさんを労働者だと認めています。
ひとたび労働者だと認められれば、労働組合法が適用になりますから、不利益な取扱についても議論の余地があるということになります。
団体交渉については最高裁判決後に3回開催されたともらったビラに書いてありました。

この最高裁判決は、以前の最高裁判例にならったものだと思われます。(最判昭51.5.6CBC管弦楽団労組事件)
出演状況がだんだん悪くなっていったため、労組を結成して団体交渉を申し入れた放送局所属の管弦楽団の労働者性が判断されたものです。
①楽団員があらかじめ会社事業組織の中に組み込まれている。②楽団員はいわゆる有名芸術家ではなく、演奏についてなんら裁量が与えられていない。③従って、その出演報酬は芸術的価値の評価というより演奏という労務の提供に対する対価である。
などの理由を挙げていて、②、③などは興味深く鋭い指摘だなと思います。
本来、自由な心の動きを表現するはずの芸術ですが、自分の裁量がなく演奏が「労務」であると認められるような状況であれば、労働者になるのだということだと思います。
この考え方は、音楽家だけではなく様々なグレーゾーンにある労使関係にも生きてくると思います。

PageTop

コメント


管理者にだけ表示を許可する