
『身につけよう江戸しぐさ』(越川禮子著 KKロングセラーズ)という本を読みました。
著者は市場調査などの会社を経営しながら、粋な商人道である「江戸しぐさ」を広めようと著作や講演などを行っているそうです。16世紀末から19世紀半ばまで日本の中心として栄えた江戸は、狭い地域に100万人の人が暮らす当時の世界でも有数の大都市でした。
「江戸しぐさ」は元々江戸の商人が、町が安泰で商売繁盛するように、お客様とよい関係を築こうと知恵をしぼり工夫を重ねた人づきあいのノウハウがベースと言われます。そのため、「繁盛しぐさ」「商人しぐさ」とも呼ばれるとのことです。人がひしめき合う100万都市での共生のマナーとして一般にも広まったようです。
本に書かれていることは、私たちが常識として行ってきたマナーがたくさん含まれていますが、最近忘れ去られてしまったことも多くあります。
最近時々耳にする言葉では「傘かしげ」というのがあります。雨の日の狭い道でのすれ違いで、すれ違う人に傘からのしずくがかからないように、すっと傘を斜めにかしげるというものです。これなど私は子供の頃から今に至るまで自然にやっていました。考えてみると最近そういうしぐさをする人が少なくなったような気がします。
「こぶし腰浮かせ」というのは、最近地下鉄の駅のポスターで見ました。後から来た人のためにこぶしひとつ分だけ腰を浮かせて席を詰めることを言います。現代は地下鉄ですが、江戸時代は渡し舟で行われたしぐさとのことです。
「江戸しぐさ」は、人間関係を円滑にして共に平和に生きるための先人の知恵のようなものです。金や物よりも人間を大切にして、差別のない共生の精神が江戸っ子の心意気です。
江戸時代、封建的で女性は大変だったんだろうなと思っていましたが、この本によると、女性上位であったとあります。自主、自律の特殊な町として栄えた江戸は参勤交代や出稼ぎなどで男性が多かったため、女性が大事にされたということです。結婚は見合いより恋愛が多く、商人の町でもあったため自立して商売をしていた女性も少なくなかったとのことです。旅館や商家などでもおかみさんの存在は大きなものでした。
最悪のしぐさは「威張る」ということだったとのことです。特に弱い立場にいる人に威張るのは最低とされたそうです。才覚のある人の芽をつまず、よそ者をいびらず、結果として良い人材を育てたわけです。
今に通じるビジネスのマナーとして「時泥棒」はしないというものがあります。相手の都合を考えずいきなり押しかけてくる人のことを言います。江戸の人たちはいろいろな段取りを整えてきびきびと生活していましたから、時間は大切だったのです。時泥棒は弁済不能の十両の罪とも言われました。当時の法律では、十両盗むと死罪だったそうで、いかに嫌われたかわかりますね。
「陰り目しぐさ」をしないなんていうのもあります。暗い感じの目つきのことで、確かに商売には笑顔が大事ですよね。
他にもいろいろと挙げられていて、自分の日ごろの言動を振り返り反省するところもありました。結局、マナーというのは相手の身になって相手がいやな思いをしないように気をつけるということなのだと思います。それは、一度しか会わないような他人に対しても同じです。仕事をする上での心得でもありますね。「江戸しぐさ」のいいところは見習っていこうと思いました。


