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おばさん社労士の発信基地 きぼうという名の事務所です。

開業してからまる13年「発信する社労士」を目指して「独立独歩」「自主自立」の活動をつづるブログです。

育児休業後の異動と人事権濫用

昨年度1年間だけ全国社会保険労務士会連合会で、労働者向けの電話相談に携わったことは、当ブログでも何度か記事にしました。(参照)
相談の中で結構多かったのが、育児休業後に復職したときに手当を減らされた、正社員からパートにされたなどの相談です。
男女雇用機会均等法では、妊娠、出産を理由とする不利益取り扱いを禁止、育児・介護休業法では育児休業取得その他、短時間勤務などを希望したことによる不利益取り扱いを禁止しています。
不利益取り扱いとは解雇、降格、賃金減額、不利益な配置変換、異動、人事考課の査定を不利にするなどです。
このうち部署や業務の変更については、会社に人事権という強い裁量がありますから、育児休業を取得したから異動させたのではないという、会社なりの合理的な理由があれば違法とはなりません。しかし、本人にとって、労働条件が不利益になるような場合、同意もなく行うと人事権濫用と判断される場合もあります。
その判断基準を示したと思われる判例を以下にご紹介します。

Kゲーム開発会社事件(東京高裁平23.12.27)

ゲームソフトの開発などをしているK会社でゲームソフト、特にK社の人気商品のゲームソフトに関して国外のライセンス業務(ライセンス契約や更新、素材入手、制作物の受け取り等)を担当していたA子さんは育児休業取得後会社と話し合い、平成21年4月16日に復帰することになりました。(休業開始は平成20年10月1日)
本人の希望により復職後は午前10時半から17時までの短時間勤務となることになりました。

K社は復職後の本人の担当業務について、当時国内ライセンス業務担当の社員Xの適性、能力に問題があり異動させることになっていたため、この後任には適性等間違いがない人物にさせたいということと、A子さんの休業前の海外ライセンス業務の顧客からひんぱんな担当者の交代についてクレームを受けていたことから、A子さんをXの後任の国内ライセンス業務担当とすることにしました。K社の就業規則には、A子さんの社員区分の場合、業務上の必要により職位を任命または解任し職場の転換や職位の変更を命じることがあり、社員はそれを拒むことができないことが規定されています。
また、報酬水準の基準であるAクラス、Bクラス、それぞれのグレードなどについて規定があります。

業務の変更によりA子さんのグレードは、B-1からA-9へと変更されました。BクラスはAクラスを指導する立場でもあり、社内の格としてはAクラスよりBクラスが上となります。
いわば、グレードが下がった形となったA子さんの報酬(年俸制)は、クラスとグレードによる決まる役割報酬が550万円から500万円に減額されました。
納得できないA子さんは、会社に何度か異議申し立てをしましたが、会社側が聞き入れなかったため、平成21年4月、とりあえず復職しました。
復職後、役割報酬とともに賃金の基準となる成果報酬の査定がありました。
休業前は90万円だった成果報酬を査定期間中3か月半しか仕事をせず育児休業したとして0と査定されました。
従って、640万円だったA子さんの年収は役割報酬の500万円に調整給として出された20万円をプラスして、520万円となりました。

A子さんは6月、代理人弁護士を通じて、育児・介護休業法にある不利益取り扱いにあたるとして、会社に報酬の減額を撤回するように申し入れをしましたが、会社が応じなかったため訴訟を提起しました。
その後、9月に海外ライセンス業務担当の社員が退職することになり、会社はA子さんに後任となるよう異動を打診しましたが、グレードを元のB-1に戻すが、年俸額はそのままとしたため、A子さんはそれを断って、翌年の2月に退職しました。

判決では、復職後の異動については、育児休業取得との因果関係があるとはいえず、会社にも合理的な理由があったとして、人事権の濫用とは判断されていません。B-1とA-9はグレード的にも隣接しているため通常の人事の裁量範囲とされています。
このあたり、異動について就業規則の記述があることが大きかったと思います。
しかし、結果的に賃金が下がったことについては、人事権の濫用で違法だとしています。

「労働者にとって最も重要な労働条件の一つである賃金額を不利益に変更するものであるから、就業規則や年俸規程に明示的な根拠もなく、労働者の個人の同意もないまま、使用者の一方的な行為によって変更することは許されない」と判断しています。
労働者にとって不利益となる変更については、やはり同意が必要だということだと思います。
たとえ、就業規則に下がることがあると書いてあったとしても、それには合理的な理由が必要となるでしょう。特に、A子さんの場合は下げ幅が大きかったと思います。

判決では、役割報酬を550万円に戻し、さらに査定期間中の3か月半を30万円(判決では成果報酬見合いの損害賠償額とされています)と認めるようにとしています。調整給20万円を入れるとA子さんの年収は600万円となり、休業前と比べて40万円の減額です。
査定期間中に育児休業して実際に働いていない分を差し引くというような考え方を裁判所はしていますが、それは妥当といえると思います。
賃金については、働いていない分を出す必要はないというのが原則です。
そのあたりの考え方については過去記事にも判例を書きました。(参照)
興味のある方はご覧ください。

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