
15日に当ブログで取り上げたうつ病で自殺した小児科医師 (記事参照)の使用者側の責任を問う裁判の判決が、29日東京地裁でありました。(参照)
先に判決のあった労災かどうかの裁判では、労働の時間のみならず質にまで踏み込んだ見解を示し、労災として認めましたが、今回の判決ではうつ病を発症させるほど重い業務ではなかったとして、遺族の損害賠償請求を斥けました。
先の判決で国側が控訴しないことが決定していましたが、同じ東京地裁で全く判断の違う裁判結果となったわけです。
判決によると、「急患はそれほど多くなく仮眠する時間は十分あった」なとどしています。朝のテレビの情報番組をチラッと見ましたが、うつ病の発症は、この医師が痛風を患っていたり、父親が亡くなったための遺産分割、長女の進学問題など個人的にストレスを抱えていたためということもあり、業務との因果関係があるとは言えないとしたらしいですね。業務との因果関係があるから労災が認められたはずなのに、裁判官によって正反対の判決となったのです。
月8回にも及ぶ当直勤務についても、普段が6回ぐらいだからその差は2回だし、同じような状況の医師は全国に少なからずいるとして突出して多いとはいえないとしました。先の判決では、小児科医の不足に対する構造的問題を指摘したのに、今回は全く言及がなかったということで、この裁判官の「生活感覚」というようなものに、ちょっと疑問を感じます。
「仮眠時間は労働時間となるか」ということについて争った有名な判例があるので、ちょっとご紹介します。社労士試験の勉強をした方はご存知かもしれません(大星ビル事件 東京地裁判決 平成5.6.17)
ビル管理業務を受託する会社の従業員が、24時間連続勤務となる時に、8時間の仮眠時間に対して泊まり勤務手当て(2300円)と、現実に仮眠しないで働いた時だけしか賃金を支払わないのは不当だとして、仮眠中の賃金も払うべきとした訴訟です。
請求は認められました。「労働時間とは労働者が使用者の拘束下にある時間のうち休憩時間を除いた時間」であるとして、休憩時間とは、「現実に労働者が自由に利用できる時間」としました。
すなわち、「現実に労務を提供していなくても使用者の指揮管理下にある時間、たとえこれが就業規則等で休憩時間、または仮眠時間とされているものであっても、なお労働時間に当たり、賃金支給の対象となる」としました。
労働時間かどうかの判断について、「労働からの解放がどの程度保証されているか、場所的、時間的にどの程度開放されているか、といった点からも実質的に考察すべき」として、仮眠時間中の職務上の義務における程度の問題にも言及しています。「職務としての拘束性の程度」を判断基準としてあげているわけです。
前述の医師の状態はまさに「職務としての拘束性」の高い仮眠時間ではなかったかと思います。全国に同じような医師がいるのだから、うつ病にかかったのは本人の問題だと言わんばかりの判決では、ご遺族の方は納得できないと思います。
ここ数年、小児科医や産科医の不足が言われています。個人ではどうしようもありません。国が早急に考えるべき問題だと思います。
〔今日の参考文献〕別冊ジュリスト№134 労働判例百選 P96~97


