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おばさん社労士の発信基地 きぼうという名の事務所です。

開業してからまる14年「発信する社労士」を目指して「独立独歩」「自主自立」の活動をつづるブログです。

広島中央保健生協事件の判決文を読む

昨年記事にした(過去記事参照)最高裁のマタニティハラスメント裁判ですが、今年に入っていち早く念押し的に厚生労働省が通達を出したりして、妊娠・出産に伴う降格処分は、本人の自由意思による同意と合理的と認められるような特段の事情がない限りは違法との判断基準が確立したかのようにみえます。
一審、二審では、何故「会社の人事の裁量の範囲」と判断したのか気になって、判決文を読みたいと思っていました。
したところ、所属する研究会で私の前にリーダーをしていた有能な仲間の社労士が、地裁、高裁、最高裁と判決文の全文のコピーをとらせてくれました。
それはかれこれ2~3か月前なのですが、なかなかじっくり読む時間がとれなくて、昨日ようやく「一気読み」することができました。
裁判というのは、報道などでは争点となったところのさわりの部分だけが報道されますし、ある政党の誰かさんみたいに判決文の中のほんの一部分だけを取り出して、あたかもそれが一般的に通用する言説であるかのように喧伝することも可能ですから、判決文の全文を入手して読まないと、自分の頭で考えることはできません。

というわけで、本事件の一審は広島地裁判決で平成24年2月23日です。
原告A子さんは平成6年専門学校卒業後からずっと被告が組織する病院で理学療法士として働いています。
平成15年2月に結婚して16年12月に第一子、20年10月に第二子を出産しています。
平成16年4月からリハビリテーション科の訪問看護ステーションで副主任となりました。
裁判では、第二子の妊娠中に軽易な業務への転換を希望して、訪問看護から病院内のリハビリテーション業務に変更になりましたが、その際に副主任の職を解かれ役職手当(月額9000円)がなくなりました。
産前産後休業、育児休業取得後に復帰する際に、すでに後輩の理学療法士が副主任を務めている職場に配置されたため、副主任に戻ることができませんでした。
これについて、妊娠、出産に伴う不利益取り扱いだとして均等法9条3項違反、育児休業後にも副主任に戻れなかったことについて、育児・介護休業法10条違反(休業したことによる不利益取り扱い禁止規定)として提訴したものです。

被告使用者側は、業務遂行上、管理運営上、人事配置の必要性に基づくものであり合理性があると主張しています。
被告の主張の中には、A子さんが育児休業から復職するにあたり、複数の異動先を検討したが、A子さんが来るなら辞めたいという理学療法士が2名いる職場があったりして、復帰先の決定が難航したというようなことが書かれています。
人事担当者は、A子さんと面談して、他の理学療法士を一人異動させることを前提として、A子さんが訪問看護ステーションに戻ることについて打診しました。
A子さんは他の職場との兼ね合いなどについて、この人事配置を強く批判しました。さらに、提示された異動先が後輩が副主任となっている職場で、自分が副主任には戻れないと知り、元部下の下では勤務したくない、あなたは元部下の下で仕事ができるのかと声を荒げました。
人事担当者は「自分は、組織の人間だから自分の本位ではなくても仕事はする」と答えたなどということが判決文の中に記載されています。

この事件の前にも、A子さんが第一子の産前休業に入る前の引き継ぎが、本人の体調不良により実質的に行われなかったこと、第一子の育児休業後に復帰した訪問看護ステーションでは、主任と意見が対立したために、会議を途中退席するなどしたため、以後、会議には人事担当者がオブザーバーとして参加するようになったことなどが事実として確認されています。
これらから、使用者側とA子さん、さらには同僚との関係が必ずしも良好ではなかったことが推察されます。
使用者側は、 A子さんの日頃の言動が役職者としてふさわしくないと考えたふしもあり、この際に役職から外そうとしたとも考えられます。
一審、二審ともに使用者側の言い分を認めていますので、裁判官の心証にもA子さんの勤務ぶりが影響を与えたことも考えられます。

しかし、最高裁では、副主任を外すことについて本人が納得していないことと、均等法に違反していないと認められるような特段の事情の存在を認められないとして、これらについて十分に審理するようにと、高裁の判決を破棄して差し戻しとしました。
最高裁判決は、平成26年、10月23日で、折りしも安倍総理が「女性が輝く社会に」と言いだした後です。
社会的にもマタニティハラスメントが関心を集めるようになっていました。
私は、最高裁判決は極めて妥当だと思っています。
妊娠を契機に降格されることが人事の裁量権などとされたら、女性は安心して子どもを産むことができません。
積み上げてきたキャリアをそのままにするのは当たり前のことと思います。
使用者側は、復帰後の職場について本人とよく相談して復帰前から準備を進めておくべきでしょう。

何故、地裁、高裁は時代に逆行するような判決を出したのか知りたいと思い、判決文を読んでみたのですが、地裁1名、高裁3名の裁判官はいずれも男性でしたが、最高裁では、裁判長裁判官が女性でした(残り4名は男性)。
最高裁では、裁判長の補足意見として育児休業復帰後の措置についても育児・介護休業法10条の不利益取り扱いに当たるとしています。
育児休業後には、原則として原職又は原職相当職に復帰させることを前提して雇用管理が行われないと、法の実効性を担保することはできないし、制度の根幹に関わるとも言っています。
良い判決だと思いました。
この病院は、「被告」という不名誉?な地位となってしまいましたが、A子さんは第一子、二子ともに産休、育休を取得して復帰していますし、同僚も育児休業を取得していて、むしろ法令を守って子育てしながら働ける職場環境を作っていたのではないかとも考えられます。企業の人事管理と言う点では、組織の中でちょっと「くせのある」といいますか、上司と衝突するような人の人事管理について、使用者の人事権だけを振り回してもだめな時代なんじゃないかなとも思いました。
企業としては、訴訟リスク等も含めてトラブルの芽を摘んでいく人事労務管理をしていくことが必要だと思いました。

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