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おばさん社労士の発信基地 きぼうという名の事務所です。

開業してからまる13年「発信する社労士」を目指して「独立独歩」「自主自立」の活動をつづるブログです。

長澤運輸事件 高裁判決文を読む

 長澤運輸事件は、昨年11月2日の東京高裁の判決です。
運輸会社のトラック運転手3人が定年退職後再雇用の嘱託(1年の有期雇用)となり、定年前と同じ仕事をしているのに賃金が減額(20%~24%の減額率)されたのは、有期雇用であることをもって正規雇用者と不合理な差別を禁じている労働契約法20条に反しているので契約は無効であり、嘱託社員の就業規則ではなく正社員の就業規則を適用して賃金も支払うべきとしたものです。
予備的には、本来支払われるべき賃金が支払われなかったのは公序良俗違反であり、民法709条に基づく損害賠償も請求しています。
高裁に先立ち、5月13日にでた東京地裁判決では、労働者側の訴えが認められましたが、会社側が控訴した東京高裁では、逆転して会社側勝訴となりメディアでも話題となりました。
裁判結果については、判決文全文を読まないと見えてこない部分も多いので高裁の判決文を読みたいと思いつつ、ずるずると時が過ぎておりました。
したところ、先日、所属する社労士会の研究会のメンバーの一人が入手した判決文全文をスキャンして送ってくれました。
持つべきものは社労士仲間。情報のおすそわけに感謝です。

 会社側は、定年後再雇用の嘱託については、高年齢者雇用安定法により義務付けられている定年退職後の再雇用について、社内的な嘱託という地位に基づき労働条件に差をつけているものであり、有期契約であるための労働条件の相違ではないので、そもそも労働契約法20条の問題はないと主張しました。
また、職務を変更しないことはむしろ当労働者にとっては有利である、定年後再雇用の賃金減額は社会的にも多くあることだなどと主張しました。

地裁も高裁も労働契約法20条が適用されることについては認めています。
再雇用の嘱託社員であっても期間の定めが設けられ、無期契約の正社員と労働条件の差があり、この差は会社側が賃金節約や雇用調整の弾力性を図るために有期契約としていると考えられ、期間の定めの有無に関連して生じているから、期間の有無による不合理な差別を禁じている労働契約法20条が適用されるとしています。
地裁と高裁の判決が逆になったのは、これから先の解釈です。
労働契約法20条に違反しているかは、期間の有無により労働条件に差がある場合、それが不合理であるかどうかが問題となってくるのですが、地裁は不合理としましたが高裁はそうではないと判断したためです。

判決文を読むと地裁では、条文上の「業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度(以下この条において「職務の内容」という)当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情を考慮して、不合理と認められるものであってはならない」となっている部分の、「その他の事情」をほとんど考慮していないようですが、逆に高裁判決では、業務内容や責任の度合い、配置の変更などの他に関連する「その他の事情」を幅広く総合的に判断しなければならないとして、結果的に逆の結論となっています。

高裁が認めた総合的な事情とは、高年齢者雇用安定法により義務づけられたため、定年後の再雇用として有期労働契約になることは社会一般広く認められていることで、その際賃金の引下げは「公知の事実であるといって差し支えない」としています。
年金制度改革により定年後の雇用確保の必要性が高まったことが背景にあり、「企業としては賃金コストの無制限な増大を回避して、定年到達者の雇用のみならず、若年層を含めた労働者全体の安定的雇用を実現する必要がある」として、企業側への理解を示しています。
また、減額をカバーするために雇用保険の高年齢者雇用継続給付があり、退職金を支給した上で新規に契約するので、賃金の引下げ自体が不合理とはいえないとしています。
また、この会社と同業他社でも同様な処遇が多く行われたいること、賃金設計では定年前の79%程度になるように設定されている、会社側が組合との交渉により手当の増額や調整給支払いなど配慮していること、運輸事業の収支が大幅赤字となっていることなどから、不合理ではないと結論づけています。
地裁では、職務内容と責任の度合いにだけ目を向けていて、これらの事情は考慮されていません。
むしろ、労働者側は労働条件には同意できなかったが、契約しなければ就労できなくなるためやむを得ず同意した等の労働者側の事情を斟酌しています。

ですから、短絡的に「定年後再雇用については賃金減額OK」と考えるべきではないと思います。
あくまでも、個別の事情を総合的に考えないといけないし、まったく同じ仕事をしているのに減額幅があまりにも大きければ、当然不合理と判断される可能性が高くなると思います。
労働者側が上告しましたから、あらためて最高裁で司法判断がでることになりました。注目したいと思います。

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