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おばさん社労士の発信基地 きぼうという名の事務所です。

開業してからまる13年「発信する社労士」を目指して「独立独歩」「自主自立」の活動をつづるブログです。

広がる荒涼たる風景『雇用融解』を読む

連休を利用して以前読者の方にお勧めいただいた『雇用融解』(風間直樹著 東洋経済新聞社)という本を読みました。


著者は『週刊東洋経済』の記者で、日本各地にある大手製造業の工場現場を取材しています。それらの取材と関連のインタビュー記事などをまとめたのが本書です。


そこには、寒々とした荒涼たる日本の雇用環境が広がっています。

長く禁止業務となっていた製造業の労働者派遣の禁止が解かれたのが、2003年です。著者はその前年、当時コスト削減のために中国進出が相次いだ他社を尻目にたゆまぬ「生産革新」により、収益を上げていたキャノンのある工場を取材します。


部品数が数万点ある高級複写機を1人で仕上げる名人「スーパーマイスター」をはじめとして、従来のベルトコンベアー方式をやめ、数人の「セル生産方式」に転換し、競争力を高めている同社を日本のモノづくりの今後のモデルケースとして紹介するつもりの取材です。


著者はふと、「スーパーマイスター」と通路をはさんで向かい側にいる、数人づつに分かれて複写機を作っていた若者たちに気がつきます。工場内での写真撮影の許可は受けていたので、彼らにもカメラを向けると「彼らは「他社の人」だから、写真撮影はキャノンの縦じまのユニフォームの人だけにして」と言われます。


言われて見回してみると、工場内には縦じまのユニフォームの社員と、それとは異なるカラフルな作業着を着た「他社の人」と半々ぐらいいることに気がつきます。「他社の人」は皆10代後半から30代前半ぐらいの若い人達です。


自分と同世代の人達ということもあり、「他社の人」について質問してみると、きさくに取材に応じてくれていた担当者の口は重くなり、曖昧な回答に終始しました。疑問を持ちつつ本来の取材目的とは違うということもあり、そのまま帰路についたのでした。


その1ヵ月後、息子の自殺について請負会社と請負先を訴えていた女性の話を聞く機会があり、一気に疑問が氷解したのでした。当時製造業に派遣が禁止されていたため、「業務請負」という形で人材を提供して、その後問題になる「偽装請負」が現場に蔓延していることを知ることになるのです。


その後著者は全国各地の工場を回り、1年後「異形の帝国『クリスタル』の実像」を『週刊東洋経済』で発表します。製造現場での「請負」について誰も何も言わなかった時代ですから、そのジャーナリストとしての勘のようなものには敬意を表したいと思います。


本書はそれらに加えて、「個人請負」、「外国人研修生」「フリーター」など安い労働力として企業に都合よく使われる労働者や、「管理監督者」として残業代もなく長時間労働させられる労働者、「聖職」という意識のために自らを長時間労働に駆り立ててしまう医師、教師、介護士などとその雇用環境の問題点などが、丹念に語られています。


読んだ後でやりきれないような気分に襲われる本なのですが、私たちはこのような問題から目をそらしてはいけないのだと思います。現実社会の「闇の部分」について認識を持ち、関心を持つことがそれを変えるための第一歩なのだと思います。


それにしても個人の力は無力です。政治の力がないととても難しい問題だと思うのですが、今の政治家でこういう問題に関心のある人はなかなか見つからないし、残念なことだと思います。

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コメント


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鈴木さん、早速お読みいただき、また「荒涼たる風景」という的確な投稿をありがとうございました。

少し古い(?)のですが、以前私が読んだ同じようなルポものをご紹介しましょう。
よろしかったら、これらも読んでみてください。
いずれも著者は、ルポライターの島本慈子さんです。
・「子会社は叫ぶ(この国でいま起きていること)」筑摩書房   2002年6月発行。
・「解雇(この国でいま起きていること)」岩波新書
 2003年10月発行。

ひますけ | URL | 2007年09月19日(Wed)16:59 [EDIT]


ありがとうございます。

ひますけさん、こんばんわ。
またまた、本のご紹介ありがとうございます。

時間を作って是非読んでみたいと思います。
ありがとうございます。

おばさん社労士 | URL | 2007年09月19日(Wed)20:06 [EDIT]