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おばさん社労士の発信基地 きぼうという名の事務所です。

開業してからまる14年「発信する社労士」を目指して「独立独歩」「自主自立」の活動をつづるブログです。

労働基準法再読(12)賠償予定の禁止

労働基準法ができる前の古い時代には、労働者が簡単に転職したり帰郷したりしないように、契約期間の途中で辞めた場合には違約金を支払わせたり、職場で何らかの失敗をした場合の賠償額を最初から決めておく労働契約などが横行していました。

労働者にとっては、それが足かせとなってむやみと退職も転職もできないというわけです。

これらは労働者の転職や退職の自由を妨げるものであり、前近代的な労使慣行であるとして労働基準法第16条で禁止されました。(注1)

〔注1〕 第16条 使用者は、労働契約の不履行について違約金を定め、又は損害賠償額を予定する契約をしてはならない。

あらかじめ損害賠償額を決めて契約することは16条違反ですが、現実に生じた損害について賠償請求することは違反ではないとされています。

古い判例では、美容室を経営する会社が美容技術を訓練してもらいながら勝手に退社する従業員に対して、指導訓練に必要な諸経費として月4万円を入社月に遡って支払わせようとしたことについて、労基法16条違反として無効としたものがあります。(浦和地裁判昭和61.5.30サロン・ド・リリー事件)

裁判所は16条違反と判断するにあたり、「当該契約の内容及びその実情、使用者の意図、右契約が労働者の心理に及ぼす影響、基本となる労働契約の内容及びこれとの関連性などの観点から総合的に検討する必要がある」としています。

労働者側の言い分は、「金銭に縛られて働くのはいやだという気持ちを抱いた」けれど、「続けて働きたい希望があり」やむを得ず契約を締結したということで、そのあたりが判断材料となっているようです。 

また、この指導訓練は一般の新入社員教育と同じようなもので、本来使用者として当然なすべき性質のものという判断も影響しているようです。

 

近年、問題となるのは、研修、技能訓練、留学等の費用を会社が立て替えた場合に、退職しなければ返還を免除するが退職する場合は返還を求めるというような場合です。

労働契約に付随した契約ではなく、あらためて「消費貸借契約」という費用を貸与した形で会社が出している場合が多く見られ、単純に労基法16条違反かどうか判断しにくいという例が増えています。これらは裁判所の見解も分かれています。

本来本人が費用を負担するべき自主的な修学(技能修得)について、使用者が費用を貸与して修学後一定期間勤務すれば返還義務を免除するのは違反ではない(東京地裁判平成9.5.26長谷工コーポレーション事件)

使用者が自企業における能力開発の一環として業務命令で修学や研修をさせ、修学後の一定期間勤務の約束をさせる(そしてその違約金も定める)のは違反(東京地裁判平成10.3.17富士重工事件)

などがありますが、ちょっとわかりにくいところもあります。労働者側が主体的に修学した場合は労働契約がらみではなくなるので労基法違反とはならない。会社が積極的に関与して修学させたような場合は労働契約と関わってくるので労基法16条と関係してくるという解釈でしょうか。

 労働者の退職や転職の自由を奪うという点では、どちらもそれほど変わりはないと思うし、実態をみて立法の趣旨を尊重するとすれば、前者もかなり怪しいのではないかという気がするのですが・・・。

 

この他にこの条文に関連する判例として、退職後同業他社に就職した場合には退職金を半分にするという社内規程があり、労働契約もあり、誓約書も出している場合に実際に半額の返還を求められ、16条違反を争った裁判例があります。

一審では違反とされましたが、二審、最高裁では違反しないとされました。(最判昭和52.8.9三晃社事件)

まず、いわゆる競業避止義務を課しているわけですが、ある程度の期間であれば合理性があり、退職金は功労報償的な性格を有しているので、同業他社へ就職した社員についての減額は合理性があるとしています。

この退職金規程は従業員の足止めを図ろうとする意図は看取できるけれど、だからといって、直ちに賠償予定を定めたものとはいえないとしています。

退職金の性格や、同業他社に行かれた場合の会社の損失、入社時にきちんと説明され誓約書もあるなどの個別の事情が考慮されたものと思われます。

労働者としては、会社の費用で何かを修得する場合にはそれがどういう性格のお金なのか、最初によく把握して会社に確認するということが大切になるでしょう。

〔今日の参考文献〕別冊ジュリスト労働判例百選№134 P28~29、P92~93 菅野和夫「労働法」第7版補正二版P134~135

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