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おばさん社労士の発信基地 きぼうという名の事務所です。

開業してからまる13年「発信する社労士」を目指して「独立独歩」「自主自立」の活動をつづるブログです。

退職金切り下げの正当性

全国社会保険労務士会連合会から会員宛に毎月会報が送られてきます。

時々の法改正情報や社会保険労務士会の動向、労働法、社会保険法関係についての有識者の論文、会員の投稿、書籍紹介などいろいろ書かれています。

支部の会合でお会いしたかねてより顔見知りの方が、「今月号に俺の原稿がのってるよ」とおっしゃるので、「何書いたんですか?」と聞けば、各都道府県労働相談所の事例紹介の原稿を書いたそうです。その方は県会の労働相談所の相談員を務めていらっしゃるのです。

「名前はでてないんだけどね」ともおっしゃいます。

確かに、会員からの投稿などは名前が記載されているのですが、このページは各地の労働相談所の事例ということで、名前はのらないんですね。

さて、拝見してみると、退職金規程の変更(減額)の有効性に疑問を持っている退職間近の方からの相談事例でした。

私の所属している研究会でも以前退職金の減額について原稿を書いてきた方がいて、最近企業でも見直しが進んでいる事項のようです。

右肩上がりの時代に設定された退職金規程では、低成長の時代や不況の時代に払いきれない、退職金のために倒産しかねないということで事業主さんから相談を受けるということもあるようです。

 

退職金については、主として「賃金の後払い」、「退職後の生活保障」、「功労報奨金」などの意味合いがあるとされて、労働の対価として支払われる賃金とは多少違うと考えられています。

会社に全くそれに関する規程もなく、支払った前例もないけれど、採用時に「労に報いたい」とだけ述べた場合には退職金支払義務はないとされますが、(東京地裁判昭59.2.28北一興業事件)就業規則に成文化されていなくても、何らかの規定が書面化されていてそれに基づき支払った前例がある場合には、支払義務があるとされます(大阪地判昭62.312.22日本花材事件)。

ですから、会社に何らかの規定がありそれに基づき支払われているということがあれば、労働者は退職金を要求することができることになります。就業規則があるような会社なら、退職金規程もたいていの場合はあると思いますので、やはり採用時によく確認することが大切でしょう。

 

不利益変更(退職金の減額)の場合はどうでしょうか。

退職金は賃金同様に重要な労働条件ですから、不利益に変更する場合には「高度の必要性に基づく合理性」が求められることになります。

就業規則の変更による場合には、労働契約法第10条にある要件(注1.)をクリアーすれば、個別の労働者の合意が得られなくても変更することができることになります。

〔注1.〕1.変更後の規則の労働者への周知、2.その変更が ①労働者の受ける不利益の程度、②変更の必要性、③変更後の内容の相当性、④労組等との交渉の状況、その他の変更に係る事情に照らして合理的かどうか。

裁判例としては、「予期すべからざる社会情勢の一般的な急激な変動による等の特別な事情」がない(大阪地裁判昭58.11.15大阪暁明館事件)、協議事項を無視して一方的に変更された(東京地裁判平7.3.7三協事件)、従来の3分の2ないし2分の1に減少させる著しい不利益変更(東京地裁判平12.12.18アスカ事件)などについて変更を無効としています。

一方で、更生計画中の会社が退職金を減額の上で15年間の分割払いにした(仙台地裁判平12.10.15更生会社日魯造船事件)、経営状況の悪化を理由とする退職金制度の廃止(名古屋地裁判平7.7.19名古屋学院事件)を有効としたものもあり、個別の事情により判断されているようです。

 

退職金というのは労働契約終了後に具体的な支払義務が生じますから、在職中はまだ請求権が確定していないことになります。在職中に支給係数の変更による減額の差額を要求したことについては、未だ定年ではなく訴えの利益を欠くとされた例などがあります。(神戸地裁判平5.2.23石堂事件)

これらの判例などを参考にすると、退職金の減額を行う場合には、個別の具体的な事情にもよりますが、まず会社側に合理的な理由があること、在職中に労働者によく説明して合意をとること、退職間近の社員については経過措置などを設けるなどして、著しい不利益をこうむらないように配慮するなどを行う必要があるでしょう。

〔今日の参考文献〕河本毅 日本法令『労働紛争解決実務講義第二版』P700~704

     

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